眼鏡越しの風景EP83-食堂-
- 2023/2/11
- yukkoのお眼鏡
最近、仕事でよく訪れる京都。住宅街の路地裏にその食堂はひっそりと佇む。
古びた看板を通りから見ただけでは、営業しているのかさえ判断がつかない。
すすけた窓からお客さんの頭が見え隠れすると、今日も開いていると安堵しながらガラス扉に手を掛ける。
年老いたご夫婦だけで営む小さな定食屋さん、ご主人が厨房、奥さんが配膳を担当する。
黒板に書かれた、日替わり定食がお店のオススメ。その他に、ハンバーグやエビフライなどの洋食から、うどんやどんぶりのメニューが並ぶ。
お昼時は、知らない者同士「ここいいですか?」「どうぞ」と、短い挨拶を交わし、相席となる。
この日の日替わりは、ハンバーグとエビフライ。私の大好物だ。
注文を終えた私の前に、外国からの旅行客2人が座った。はるばる日本の定食屋さんをガイドブック片手に訪れたようで、日本語のメニューしかないことを食堂の奥さんに告げられると、メニューにスマホをかざし、日本語を翻訳しながら、どれにしようかとずいぶん迷っていた。
翻訳機能が『丼』の文字をうまく訳せず、苦戦していたようなので、私は自分のスマホでカツ丼の画像を表示させ、二人に見せた。
そのあとも『カツ』が何のお肉かという二人のやり取りに、おせっかいながら『ポーク』とつい口をはさんでしまった。
結局、肉うどんとカツ丼の注文に落ち着いたようで、その後もメニューを見ながら「あーでもない」「こーでもない」とお喋りをしていた。
店内は、近隣で働く老舗商店の店主や、常連のサラリーマンでお昼時は満席。
「俺、いつもので、ごはん大盛りね!」
「オススメでごはん少な目!」
と、常連さんならではの注文風景に耳を傾けながら、私は定食が運ばれてくるのを待っている。12時を過ぎると、外には今日もすでに行列が出来ていた。
湯気が上がる美味しそうな定食が運ばれてくる。こういう時、いつもは汁物の味噌汁から手をつけるところだが、ここではあえて、メインのハンバーグから一口いってみたい。
ハンバーグに箸を立てると、割ったそばから熱々の肉汁がお皿に溢れ出てくる。
視覚からも美味しそうな瞬間。
ハンバーグをひと切れ。
白ごはんを一口。
お仕事合間、
休憩のひと時、
至福の時間。
横に添えられた手作りマヨネーズで和えたスパゲッティサラダ、
千切りキャベツ。
ここは、炊き方がうまいのか、お米自体が美味しいのか、詳しい事はわからないが、
白ごはんが美味しい定食屋さんは、『当たりの定食屋』という私の自論もまんざら間違っていないよう。
この日は、寒波が到来し、京都の街は特に冷えていた。斜め向かいに座る、パリっとスーツを着こなした女性が、豚汁定食を注文。
ごはんを時々、どんぶりいっぱいの豚汁に浸しては、猫まんまんにして食べていた。
お行儀がどうのこうのというよりも、具だくさんの豚汁があまりに美味しそうで、そうしたくなる気持ちも納得、むしろ微笑ましくもあり、そっと見て見ぬふりをした。
私は男性と同じ量のどんぶりごはんをハンバーグとともにペロリと平らげ
「ごちそうさま」と手を合わせた。
「ごちそうさまでした~!」
「おおきに 750円ね!」
「いつもありがとね~」
京都へ行くたびに通っていたら、私もいつしか常連さんになっていた。
♪My Favorite Song
チキンライス 槇原 敬之