眼鏡越しの風景EP82-道標-
- 2022/12/17
- yukkoのお眼鏡
『あの…京都に行きたいのですが』
『この電車は奈良へ行きますか?』
『〇〇病院はどこですか?』
『この近くに郵便局はありますか?』
更にこんなことも。
『この電車は渋谷 行きですか?』
もう自由が丘、渋谷はとっくに過ぎてますけど。
そして私は旅人で、ここは地元ではないっ!!
と、旅先でさえこんな調子である。
仕事先や家の近所、駅の切符売り場、通勤途中、隣あった座席の外国の方々がタブレットやスマホを見せ、ありとあらゆる場所で道や、目的地への行き方を尋ねてくる。
最初の頃、英単語を並べた拙い会話では、周りの人に聞こえると恥ずかしいと、自分が周りにどう見られるかばかりを気にしていたが。
こう頻繁に道案内場面に遭遇していると、だんだんともっとこう言えば分かり易かったかな、別れ際『Have a nice trip!』くらい気の利いたことを言えればとか、少し旅の話をすれば良かったなど、いろいろと思うようになった。
それは10年ほど前、スペインを旅した際、夜ライトアップされたサグラダ・ファミリアの全景が、公園の池に映る姿がとても美しいと評判の『ガウディ広場』へ出かけた時のこと。
夕食のあと地下鉄に乗ってわざわざ出かけた甲斐もあり、静かな水面に映るサグラダ・ファミリアは評判通りの美しくさ、夢心地でうっとりしながら帰っていると、あろうことか地下鉄の出口を2ブロックほど間違え、人気のない場所に出てしまった。
遠くで騒ぐ町の酔っぱらいの声が響き、真っ暗な石畳の歩道を、ほの暗いオレンジ色の街燈が弱々しく照らしていた。夜も23時をまわると、さすがのスペインでも人気のない場所はどこか薄気味悪い。
どうしよう。
たった1人、頭の先から血の気が少し引いていくのがわかった。
その時、たまたま通りかかった男女5人組。
一か八かで声をかけた彼らは、情熱の国の気質を思わせる陽気な大学生だった。
この旅行中も、ホテルや駅で働く人々は別とし、町の小さな商店や通行人に声を掛けると英語が通じないことが多く、今回も案の定、意志疎通に苦労したが、私も彼らもわかりやすい英単語を並べ、なんとか伝えることができ、無事、ホテルへ帰れた。
暗闇の中、心細くすがる思いで掴んだ、一筋の希望の光のような安堵感だった。
旅先で道に迷う不安は誰しも同じで、そんなことを考えると、周りにどう見えようが、もうそんなことはどうでもいいやっ!と思え、過去行った先々で助けてくださった人たちへの気持ちを、今度は日本にやってくる旅人へお返しする。
今はスマホにも翻訳機能があり便利だが、そこはあえてせっかくの活きた国際交流のチャンスを自力でなんとかするのも、面白いと思えるようになった。
数年前、オロオロと道に迷う親族一同10人ほどで日本に来られた御一行様に声を掛け、道案内をしたことがあった。
仕事の移動途中だったが、そのまま道案内することとなり、近くのホテルまで引率。
ホテルに到着すると「ありがとう、ありがとう」と満面の笑顔で、それぞれから握手を求められ、なんと都会のど真ん中で、全員から拝まれ、もみくちゃにされ立ち尽くすという、不思議な状況になっていた。
『SNSはやってないの?』
『あなたが私たちの国に来る時は必ず連絡してね、素敵な場所へ案内するから』
『日本も大好きだけど、私たちの国もとても素晴らしいのよ』
と、クセのある文字で書かれた連絡先を渡された。そしてなんの記念か、案内したホテル前で色とりどりの民族衣装を着た彼ら一族に囲まれ集合写真、世界のどこかの誰かのSNSにスーツ姿の私が、今も苦笑いしている。
♪My Favorite Song
僕らが旅に出る理由 小沢 健二