眼鏡越しの風景EP73-表情-
- 2022/7/2
- yukkoのお眼鏡
所用で県外へ遠出することがあると、なるべくその前後に近隣の観光地を訪れることにしている。普段の旅行とは違い、そういう時はあえて観光地のど真ん中、徒歩圏内に泊まってみる。観光に疲れたら、一旦ホテルに帰って小休憩を取ったり。買い過ぎたお土産をホテルの部屋に置きに帰ったり。もちろんこういった利便性にも惹かれるが、一番の目的は有名な観光地の時間帯による違う表情を見ることだ。
日中、観光客で溢れかえた街の表情は、賑やかで明るい。果物たっぷり、大きなパフェ越しに写真を取り合う女の子たち。結婚何周年記念旅行の老夫婦。制服で路地を走っていく修学旅行生。行列必至のジェーラート店に並ぶのも、友達となら楽しい思い出。カメラを構える姿がどこかアンニュイなひとり旅のカメラ女子にも出会う。
夕暮れ時は、地元の方が日常生活の通過点として帰りを急いでいたり、その日泊まりの観光客が宿泊特典とばかりに閉店間際まで観光の続きを楽しんでいる。この時点で、修学旅行の生徒さんや、日帰りバスや旅行ツアーのお客さんたちはもう居ない。それでもまだお土産物店は開いているので、ゆっくりとお土産を選んたり、お店の人に「どこからお越しですか?」と尋ねられそのままお喋りをしたり、人気カフェに待ち時間なしで入れたりと、個人旅行客のゴールデンタイム。
日は沈み夜になると、個人旅行客もそれぞれ宿に帰っていなくなる。その頃、行き交うのはそこで暮らす地元の人たち。観光地によっては、「そして誰も居なくなった」とばかりに貸し切り状態なんてことも。只今、夕方6時、観光地の夜の始まりは早い。日中、多くの観光客で賑わっていた喧騒がなかったかのような静寂に包まれ、お店がこの日の営業を終え、シャッターをおろすと、“おしまい”感が漂い、さらに静かな空気が流れいく。観光地の動と静、夜の音を聴きながらガス灯の下、風に吹かれるのもいいだろう。旅館の塀の向こう側から、微かに漏れ聞こえる宴会のざわめきを背に、旅先の夜は更けていく。
翌朝は、散歩に出かけよう!旅に出た非日常の興奮の流れをそのままに、眠い目をこすりながら、あえて早起き。顔だけ洗って、着替えたら、朝食前に朝散歩スタート!誰もいない朝の観光地、1本路地を入ると町屋旅館の番頭さんが打ち水をしている、「今日も暑くなりそうですね」っと、見上げた空はさっき昇ったばかりの朝日がすでに眩しい。犬の散歩をする人、日課のジョギングに勤しむ人、高台から流れ聞こえるラジオ体操、地元の氏神さまの境内では、ご近所の方々が早朝から竹箒で落ち葉を集めている。毎日その観光地が幕開けするには、そんな日常があるからなのだ。神社の長い階段で出会えば、観光客も地元の人も「おはようございます」と挨拶し合う、通り過がりのただの旅人から、少し昇格したようなそんな瞬間。
そして訪れた私もまた、この土地にいろんな表情を落としていく。
♪My Favorite Song
たまには街に出てみよう 秦 基博