眼鏡越しの風景EP68-無二-
- 2022/4/24
- yukkoのお眼鏡
子供の頃、「みんな持ってるから、買って~!」と言うと、
母は決まって「よそはよそ、うちはうち」と、私の要望を却下する。
毎回撃沈するとわかっていても、万が一を期待して凝りもせずにその後もおねだりしていた。
当時、小学校では通学のランドセルに代わり、肩掛け鞄にシフトしていく子どもが増えていた。男の子はスポーツメーカーのロゴ入りボストンバック、女の子は教科書がたっぷり入る大きめのスクエア型のサンリオキャラクターのものが人気。ナイロン素材で、手提げと肩掛け、両方の持ち手が付いた2Wayタイプ。正面にはキャラクターのイラストが大きくプリントされ、鞄の色はそれぞれキャラクターのイメージカラーで、縁取りやボタンの色などのディテールはキャラクターにより少しずつ違っていた。王道キャラクターのキティちゃんは赤、うさぎのマイメロディちゃんはピンク、リトルツインスターズのキキとララはパステルピンクと水色、どれも小学生女子が好みそうな可愛さだ。毎朝登校するたび、クラスに一人、二人と、買って貰えた子が増えていき、もちろん私もそのブームに漏れることなく「欲しいぃぃ」となった。母からは案の定「人と同じの、持ちたい~?」から始まり、みんな同じ鞄だと、どれが誰のだかわからないだとか、個性がないなどと、ごもっともなことを子供相手に容赦がない。たとえそうだとしても、欲しいものは欲しい、こちらも諦めるわけにはいかないのだ。ランドセルは今の私には小さいと機能面から説得を始め、次に買って貰えればクラスで花形になれると熱弁した。鞄ひとつで花形になどなれないことくらい、小学生の私にもわかっていたが、そこは嘘も方便、買って貰うためのこれはプレゼンなのだ。毎日夕飯を作る母の周りをウロウロしながら熱弁を続け、最後は母が根負けした形で、自分のお小遣いを足すことを条件に、五千円を出してくれることとなった。
ちょうどその頃、歩道橋を渡った隣町にサンリオショップがオープンし、今までは駅前まで行かなければ買えなかったものが、小学生の徒歩圏内で手に入るようになったことも、キャラクター鞄の人気を更に加速させていた。普段は可愛い文房具やヘアゴム、サンリオキャラクターの情報が載った150円の“いちご新聞”なるものを、毎月友達と交互に買い、回し読みするなど、せいぜい数百円を遣う程度で、数千円を超える大物を買うのは初めてだった。人気の鞄は小さなお店の棚の一番上にデザインがわかる配置で壁面360度にぐるりと並べられていた。手に取りたい時は、鍵針の長い金属棒でお店の人に取ってもらわなければならないので、買うと決めるまではなかなか言い出しにくい。商品は入荷してきたばかりで今なら好きなものを選べる。私は混雑するお店の中ほどに立ち、壁際をクルクル見渡しながら、赤色のキティちゃんはリエちゃんが、こっちのピンクのマイメロはミズホちゃんが、水色のペンギン、タキーシドサムはカナエちゃんが…と、どれもこれもクラスの友達とかぶってしまう。わかっていながら王道キャラクターの鞄を買いに来たけれど、母の言葉の残像か、やっぱり人とはかぶりたくないなぁ…、と思いあぐねていると、隅っこにひっそり置かれていたネイビーの鞄が目に止まった。端においやられていたそれは、“セブンシリードワーフ”という7人の小人のキャラクターのものだった。赤やピンク、パステルカラー主流の中で、小人の彼らのキャラクターカラーはネイビー。アレと指差し店員さんに壁から取ってもらった。よく見ると小人が7人7色でカラフルに描かれ、鞄自体はシンプルにネイビー1色、イラストが真ん中でうまく差し色となり、子供すぎないデザインも好みだった。その時は母に対する小さな抵抗から、一番好きなものより、人と違う二番目に好きなものを選ぶこととなったが、その後も小人の鞄は誰ともかぶることなくご機嫌で持ち続け、いつの間にか一番好きになっていた。
そんなことを思い出しながら、大人になった今の私は「一番好きな、自分だけのもの」にこだわっている。
♪My Favorite Song
GIFT Mr.Children