眼鏡越しの風景EP67-植物-
- 2022/4/10
- yukkoのお眼鏡
桜は今が満開。それが終わるとそろそろ若葉の季節がやってくる。庭先やベランダで植物を大切に育てている人を見かけると、季節を紡ぎ丁寧な暮らし方をしていると憧れる。私も常々、お家をいろんな植物でいっぱいにしたいと思っているのだけれど、なかなかそれが叶わない。というのも、何故だかいつも植物を枯らしてしまうからだ。肝心な時に雨に降られてしまう人をよく「雨女」「雨男」などと言うが、そのパターンでいくと私は「枯れ女」なのだ。そのままでは聞こえが悪いので、有名画家が描いた絵画のタイトル風に、そこは「枯らす女」とでもしておこう。さすがの私も買ってすぐに枯らすことはないのだが、長く育てられないという意味では、なかなかの枯らしっぷりだ。
植物が元気な家は「気の周りが良い」と聞いたことがある。そういえば、私がよく植物を枯らしていた時期は、辛いことがあって落ち込んでいた時と重なっていたような気もする。悪いものを吸い取り、代わりに枯れてくれていたのだと、都合よく解釈している。
私が住むのは南向き日当たり最高の部屋だ。1日中、太陽が差し込み、部屋の中まで明るく暖かい。人が暮らすにはかなり良き場所なのだが、夏は日差しがキツすぎるせいか、植物に水をあげてもあげても足りていないようで、その時期によく枯らしてしまう。実家では、父が庭の草花を季節ごと手入れし、いつも綺麗に花を咲かせているので、育てるコツを聞いてみたこともあったが「太陽に当て、水をあげ、適度に肥料、そこは感覚やなぁ…」と言うだけで、明確な答えは得られなかった。
そんな私は数年前、部屋をお洒落なカフェ風にしたいと思い立ち、家具を新調し、インテリアをガラッと替えることにした。それには、存在感のある植木がいる!と考えるようになった。どの観葉植物にするか種類や大きさなど、色々悩んだ末に葉のスリットが可愛く、南国の雰囲気漂う姿に一目惚れした「クワズイモ」という植物を購入した。私の背の高さの半分ほどの大きさで、枝ぶりもカッコいい、届くと一気に部屋が素敵になった。数日はご機嫌にお世話をし、癒し空間になった我が家に大満足だったのだが、ある日、仕事から帰るとクワズイモを置いている辺りの床が濡れている。出掛けに水をこぼしたのかなと思い、その時は気にも止めずに拭いたのだが、それからは毎日となり、窓が結露しているのかと、カーテンをめくってみたり、別の原因をあれこれと探っていると、屈み込んだ私の頭にポトッと水滴が落ちてきた。見上げるとさっきまでスーンと他人事のように澄ましていた、クワズイモの葉先にいくつもの水滴。「泣いていたのは君か!」と、ようやくその理由がわかった。“泣いている”と言えば聞こえはいいが、どちらかと言えば“お漏らし”の感覚に近い。アロイドと呼ばれるサトイモ系の観葉植物は、水孔部分から余分な水を排出する機能が備わっていて、よくあることらしく、そういう植物の種類なのだ。そういえばこの種類のものは、お家で見かけるというよりは、店舗などに置いてあることが多く、多少床が濡れても問題がないような、水はけのよい場所に置かれていたのだった。「これから育ていくぜ!」と気合十分だったが、毎日帰ると床を拭く日々、大泣きしている日は小さな水たまりのようになるのでフローリングの傷みも気になり、購入した植木屋さんに事情を話し、泣く泣く引き取ってもらうことにした。
その後もあれこれ育ててみたが、最近は9種の色とりどりの多肉植物と、垂れ下がる葉がコウモリに似ていることからそう呼ばれている、コウモリラン(ビカクシダ)と一緒に暮らしている。今の時期、日中は外に出し、帰宅すると部屋に入れ、予定外に帰りが遅くなると、ベランダから取り込む際に「遅くなってしまってごめん、寒かったね~」と、独り言でついつい話しかけてしまうほど。土が乾ききったら葉と根元に水をたっぷりあげるのだが、それにもコツがあり、お花屋さんからもらった育て方のメモには『頭から冷たいお水を掛けないでね、人間だって風邪をひいちゃうでしょ、それと同じだよ』と書いてあった。自分が春先に冷たい水を頭からぶっかけられることを想像すると、妙に納得してしまい、お水を微かなぬるま湯にしてあげるようにしている。幸い、植物たちは風邪をひくこともなく元気にスクスク育ってくれている。毎日様子を見ては、コウモリランに新しい葉っぱが出てきたと喜び、株元の貯水葉がうまく枯れ、枯れた貯水葉が根元に層となる、それもコウモリランを育てる楽しみのひとつで、その枯れ葉の層がいく重にもなると貫禄が出てカッコよくなっていく品種なのだ。もう一方は、近所の花屋さんで売れ残っていた多肉くんたち、連れ帰った時はまだ頼りなげで華奢な株だったが、今では色も変化し、たくましく育っている。おじいちゃんが盆栽いじりにハマる理由が少しわかったような気がする。手をかければ、その分答えてくれる姿は、とても愛しい。
今なら、あの泣き虫だったクワズイモちゃんも、うまく育てていける気がする。出会うのがほんの少し早すぎたんだな。
♪My Favorite Song
やさしさで溢れるように JUJU