眼鏡越しの風景EP65-春風-
- 2022/3/12
- yukkoのお眼鏡
3月。年度末近くになると、1年間がんばった自分への労いを兼ね、平日に近場で「おひとり時間」を楽しむ。私を、私が、おもてなしするという贅沢な1日は『おひとりさまデート』と名付けた春先の恒例行事だ。気になっていたお店や、最近できた新しいスポット、春待ちの梅を見に行ったり、電車で行ける日帰り温泉なんて時もある。この『おひとりさまデート』には一つルールがあり、使える費用は5,000円まで。あえて制限を課してのお出かけは、なんとも楽しい。交通費は定期券を持つ区間はそれを使ってもOK。電車の1日乗車券や、割引の前売りチケットを購入するなど、いかに工夫しながら予算内で充実した1日を過ごすかがカギだ。もちろん水筒とちょっとしたおやつは必須アイテム。
その日は、朝から春を感じる、暖かな良いお天気。少し前から週間天気予報を気にして、晴れの日を選んで有休を入れていた。お休みにも関わらず、はりきって早起きして、お家を出発し、電車を2つ乗り継いで、桜が綺麗な川沿いの駅に到着。快晴の空を見上げ、大きく伸びをした。
軽快に歩き出すスニーカーのつま先は、行き交うスーツ姿のサラリーマンとは逆方向へ。そんな街の空気を感じながら到着したのは、その界隈ではパスタが美味しいと人気の、小さなビストロ。少し早めの平日限定ランチを、あらかじめ予約していた。「平日限定」ってところに、普段はなかなか行けないお店のこの日限りのご褒美感がある。
ハーブや、葉もの野菜山盛りの前菜プレートから始まり、食事の合間には、海草の練り込まれたモチモチの揚げパンをシェフがカウンター越しに、トングでひょいっとお客さんたちのお皿の隅っこにのせてくれる。2種類のパスタから、牡蠣とバジルソースのものを選んだ。春を感じる菜の花と、たっぷりのパルメザンチーズ、にんにくの香りが食欲をそそる。少し軽めのコースかと思いきや、1,200円でボリューム満点。オープンキッチンからは鍋を振る音や、カトラリーの触れる音、少しの喧騒と大きめに流れる洋楽、そこには、雑多な居心地の良さがあった。
次に向かったのは、今年2月にリニューアルオープンを迎えた『大阪市立科学館のプラネタリウム』元々、私は星が好きなのもあり、プラネタリウムにはよく行く。リニューアル前にも、すでに何度か訪れていた。50分の投影時間で入場料は600円。平日の割にお客さんの入りはそこそこ、子供はもちろんだが、大人の年齢層は高めで、おじいちゃん、おばあちゃん世代が多い、星好きな人がこんなにいると思うと、うれしい。予約した投影プログラムは、壮大な宇宙をテーマにした星のお話。ドームの中央に鎮座する、新しく導入された星の投影機は小ぶりながら、なかなか美しいフォルムのイケメンくん。すぐに私たちを壮大な宇宙の旅へといざない、エスコートもスマート。お昼を食べたばかりで体はポカポカ温かく、ほの暗い天井高のドームと、心地よいリクライニングのシートに身を預け、星の解説員さんの優しい声に、少しウトウトしていたようで、目を開けると頭上にはすでに満天の星空が広がっていた。
ここまでで残金は3,200円、“おひとりさまデート”も中盤、まだまだ楽しみはつづく。
次は、構想から40年を経て、こちらもプラネタリウムと同じ、2月2日に満を持してオープンした『大阪中之島美術館』。こう考えると中之島エリアが近頃なかなか熱い。美術館には長年掛けて集められた、数々の絵画や美術品、開館記念のコレクションの展示が、今回の特別展となっている。最近は混雑緩和の為、どこの美術館でも事前予約チケットのシステムを取り入れているところが多く、私も前日に時間指定のチケットを取った、チケット代は1,500円。4階まで吹き抜けの洗練されたグレーを基調にした館内、幾何学模様のように配置された、長いエスカレーターさえ、デザインの一部となっている。たっぷり2時間半、美術館を満喫した。
外に出ると、まだ風が冷たい。
夕暮れ時の中之島、川に架かるいくつもの橋のシルエットを遠くに眺め『おひとりさまデート』の最後には少しロマンチック過ぎる気もしたが、いかにもなお洒落カフェで、ミルク多めのカフェラテと小さな焼き菓子を注文し、1,500円を払った。
春まではあと少し、ポケットの中で握りしめた200円が、今日1日の充実感を物語り、夕やみに染まる橋のコントラストを背に、お仕事帰りの人たちに紛れ家路についた。
♪My Favorite Song
夢で逢えたら 大瀧 詠一