眼鏡越しの風景EP62-創造-
- 2022/1/29
- yukkoのお眼鏡
エッセイの連載が始まり、自ら書くということを続けていると、誰かが発する会話やSNSに流れていく流行りの言葉、仕事のメールなど、そのまま通り過ぎていく何気ない日常の言葉たちが、気が付いてくれと言わんばかりに目に止まるようになった。
世の中には言葉を操ることを生業とする人がいる。小説家、作詞家、脚本家、随筆家、記者、コピーライター。思いつくだけでも、こんなにたくさんの職業がある。その中でも、コピーライターという仕事について、私が感じていることを書いてみようと思う。この方たちのお仕事というのは、出会う人の心を瞬間的に数文字の言葉で打ち抜いてしまう射撃手のようだ。テレビで流れるCMや街中にあるビルの看板に大きく掲げられたインパクトのあるキャッチコピーに、時おり心をギュッと持って行かれるからだ。通りすぎる誰かの心をギュッと掴むこと、それこそがコピーを考えた人の思惑と達成感やコピーライターの仕事の完結を意味し、ライター冥利に尽きるというものなのだろう。私も好きなコピーはいろいろあるけれど、何度聞いても、やっぱりいいんだよな~と思うのは、某建設会社の『地図に残る仕事』というキャッチコピーだ。これにはやられたーと、CMを見るたびに称賛の拍手を送りたくなる。このコピーが使われ始めてから、かれこれ30年以上、令和となった今でも全く色褪せず世の中に流れ続けている。難しい言葉を何一つ使わず、けれど、この会社が建設物を造る会社だということがわかり、更には、過去も未来も地図に残るような、自信を持てるいい物を造っていくという意気込みや、言葉通りに取れば地図に残るような大きな仕事をしているという誇りのようなものも感じ取ることができる。たったの9文字にこれだけの思いが込められ、受け側の取り方や想像によっても企業の言いたいことがさらに広がりを持ち、まさしく広告だ。テレビのCMでは、新海 誠監督のアニメーションにのせて、このキャッチコピーが流れているのだが、それもまたスッキリとした潔さがあり、とてもカッコイイ。
このCMを見るとよく思い出すことがある。とある大手建設会社に勤める同級生と私は、私の出張ついでに、彼が赴任する福岡で久しぶりにごはんでも行こうかということになった。2人ともそれぞれの会社に入って、まだ2年目の頃だった。車で駅まで迎えに来てくれた彼は、目的地に向かう道すがら窓から見える景色を指さし、「あれ僕が造った商業施設なんだ」「あそこに見える高いビルも、この前やっと完成してん」「あれは工期が短くてほんま大変やった~」と、大変だったこともさえも、どこか嬉しそうで誇らしげに話していた。外国メーカーの車のショールームを手掛けた際は、あまりにも思い入れが強すぎて、ショールームが完成した後、記念にそのお店で、いつか買おうと考えていたマイカーを買ってしまったほどだった。どおりでカッコイイ車で駅まで迎えに来てくれたわけだ。彼の中のこの街を僕が造っているという自負が、その横顔をずいぶん大人に見せていた。そんな2年目の未来ある若者の話を、同じくひよっこの私がわかった風な顔で真剣に聞いていたのも、今なら少し笑える。
地図に残るなんてそんな大きなことは言えなくても、仕事、歌や音楽、エッセイでも人の心の片隅に残る何かを…。私もいつかそんな夢を叶えられたらと、何十年もたった今、あの頃の彼と同じような横顔を出来ていると信じて。
♪My Favorite Song
変わりゆくこの街で MISIA