眼鏡越しの風景EP57-古着-
- 2021/11/19
- yukkoのお眼鏡
2021年7月から始まったインターネットラジオ番組『Starlight Dreams』の中で、朗読コーナー『yukkoのお眼鏡』を担当している。番組は、神戸で活躍している人物にスポットを当てるトークコーナーや、神戸ゆかりのミュージシャンが披露するスタジオライブがあり、前回の収録では、神戸の老舗古着屋さんと言えばココ!『突撃洋服店』の店長さんとお会いすることが出来た。
私が学生の頃、当時叔母が毎月欠かさず購読していたお洒落系ファッション雑誌を読み終わると、おさがりのようにその雑誌は私の元に回ってきていた。流行りの洒落た表現や言葉のチョイス、アイテム名や着方のアパレル専門用語の横文字が並ぶ。紙面を飾る彼らは、今年のトレンドをいち早く語り、暮らし方から、生き方まで洗練されたセルフプロデュースを得意とする、スタイリストやデザイナー、モデルの肩書を持つ人たち。私の日常にはいない、遠い憧れの世界の住人だ。雑誌に紹介されるショップは渋谷や原宿、下北沢、、、と、やはり東京。それでも、年に2度、地方都市での「一般人のお洒落さん」が紙面に登場することがあり、毎度その特集号を私は楽しみにしていた。札幌、大阪、京都、名古屋、博多など、神戸ももちろん漏れずに入っている。
午後の暖かい陽が射すフラワーロード。集まったお洒落さんたちが、それぞれこだわりの個性溢れる洋服に身を包み写真に収まる。今日のお洒落ポイントや、どのショップで購入したか、着用アイテムへの熱い思いのコメントが写真に添えられている。そこで目にした、祖母、母、娘と三代に渡り譲り継がれている年季のはいった鞄や、アンティークの繊細なレースがほどこされたショール。新しいものに、古いものを組み合わせ、古典柄の着物をリメイクしたり、雑誌の中の彼らも、大学生やファッション専門学校の学生、上から下までトータルコーディネートを購入するには予算が厳しく、足りないアイテムはアイデアやリメイクで補っていると書かれてあった。祖父母からの古着はリメイクで素敵な仕上がりとなり、新旧のセンスを感じる。これなら私にも真似が出来そうと、私も祖父のスーツを切って縫い、自分用に作り替えたり、母が若い頃、ミニスカート姿で持ち歩いていた、ドクターバッグのように頑丈なガマグチが付いた革のハンドバック。押し入れから引っ張り出してホコリを払い、丁寧に磨き上げた。褪せたヴァーガンディの色合いとずんぐりとしたフォルムは、今にはないレトロさを醸し出していた。いつも紹介されているお店は東京ばかりだが、この特集号は、神戸元町や旧居留地のレトロなビルに入る古着屋さんや洋服屋さんの名前を挙げている人が多く、雑誌片手にそれを頼りに1人お店巡りをしていた。通りで雑誌を見ながらキョロキョロし、「最初からココを目指して来ました!」みたいな顔をして入店していたが、上手くそんな都会的な顔が出来ていたかはわからない。お洒落な古着屋さんは学生には、かなりハードルが高く、個性的で洗練された店員さんとは目も合わせられず、ソワソワしながら、オドオド洋服を見て、コソコソ帰っていた。ヨーロッパなどで買い付けられた古着には、襟元に細やかな刺繍がほどこされたブラウスや、丁寧に縫製されたレトロ柄のワンピース、ジャガード織の複雑な色合いのオーバーコートにはクルミボタン、日本にはないデザインが新鮮で異国の風を感じる魅力的なものが多かった。私が考えていた古着は古い衣料品、新しい洋服よりも値段が安いと思っていた。長年世代を超え受け継がれていき、年代物のワインのような熟成が、ファッションアイテムにも通ずると、その時に知ることとなった。
大人になってからも古着屋さんは好きで、たまに覗いてみる。ソワソワしていた学生のあの頃とは違い、少しは目利きも出来るようになり、年代や生地の状態とコーディネート考えながら選べるようになった。
数年前に買ったフランス軍払い下げのダークグリーンのシャツはなかなか使い勝手もよく、古着屋さんのお姉さん曰く「フランスだけにアーミーの支給品でさえも、デザイン性が高いんです」というオススメ文句だったが、合わせがアシンメトリー、機能面も緊急時着脱がし易いよう、マジックテープとスナップボタン両方の仕様で左肩で留めるようになっている。着方によっては、少し渋めのポンチョに見えなくもない。メンズサイズで大きめなので私は薄手の羽織物として使っている。
次に購入したアメリカからやってきたアウトドアウェアもなかなかよかった。自転車のお出かけ用に購入したのだが、ポケットがたくさん付いていて、必要な物をポケットに入れ、手ぶらで出かけることも出来る機能性、表地は青のシャカシャカ生地、内側には防寒用、起毛の赤いチェックの裏地がフードに渡って付いている、裏返すと遊び心がありカッコ可愛い。新品とは違う、着古された馴染み具合いも、いい味をだしている。どんな人が着ていたのかなぁと思いながら、ポケットに手を入れると、指先に触れた小さなコイン。
遠い国の誰かが忘れた、ポケットの5セント。
♪My Favorite Song
7.1oz 菅田将暉