眼鏡越しの風景EP51-眼鏡-
- 2021/8/28
- yukkoのお眼鏡
小学生の頃.眼鏡っ子の友の後ろで視力検査を待つ間、
「下?うーんっ.わかりません」
と、モゴモゴしてるのを見ると、後ろから
「みぎ!右だよ!」
「うっうえ!上、上っ」
と、クイズでなく検査にも関わらずコソコソ答えを教え、先生に叱られていた。どうしてあんなに大きな輪っかが見えないんだろうと、その頃は不思議で仕方がなかった。
それから10年ほどたつと、あの頃の保健室の光景を思いだすものの、指し棒の先、大きな輪っかを自分が「わかりません.」と答えることになろうとは思いもしなかった。
それからは
「眼鏡を外した顔って、見たことないよね~」
と言われるほどに、私もすっかり眼鏡っ子になってしまった。
もちろんコンタクトも過去2回ほど試してみたが、すぐに飽きてしまい容器の中で毎回ミイラのごとく干からび終了となった。それでも当時の眼鏡はデザイン性のあるものは少なく、目が悪いイコール眼鏡をかけるという機能性重視のものが多く、眼鏡自体も高価だった為、今のように洋服に合わせ数本の眼鏡をかけ替えるというような、お洒落な時代ではなかった。そのせいか学生時代、眼鏡をかける自分をなかなか好きになれずにいた。授業中以外はいつも眼鏡を外し、無意識ではあったが眼鏡っ子のイメージが付くことを避けていたのだと思う。
「写真撮るよ~」
と言われると、すぐに眼鏡を外していたのも、眼鏡姿の自分が写真に残るのが嫌だったからだ。
そんな眼鏡嫌いな私が今から17年ほど前、東京恵比寿の駅前で、キーボードで弾き語る赤い眼鏡の女の子と出逢った。土曜の夜、賑やかに浮かれる都会の雑踏と人混みの中、どこからともなく聴こえてくる鍵盤の音色と透き通る歌声。彼女の歌声が響くと、今まで忙しなく動いていた街が時間を止め、人々は耳を傾け、お喋りをやめた。待ち合わせのカップルは思い出の1コマとして、近くの手すりにもたれ聴き入っていた。彼女の音楽を軸とし、知らない者同士が引き寄せ合いそこに集う、不思議な一体感さえ生まれていた。その頃はその後自分が人前で歌うことになるとは思いもせず、ただただ憧れの眼差しで、その輪の中に立っていた。路上ライブで初めて買った自主製作のCDは今でも大切な一枚だ。
赤い眼鏡の彼女は「10万人が足を止めた魔法の声」と言われ、今では多くの人が知ることとなるアーティストになった。同じ誕生日の彼女にちょっぴり運命を感じつつ、私はあの頃の彼女との出逢いを時々思い出しては、眼鏡をクイッとあげてみるのだ。
♪My Favorite Song
小さな星 奥華子