眼鏡越しの風景EP43-無口-
- 2021/5/8
- yukkoのお眼鏡
今年は早くから暖かくなったせいか、目や顔の周りがやけに痒い。数年ぶりに花粉症を再発させてしまったようで、ついに我が家にも空気清浄機を迎えることとなった。
以前、エッセイに登場してくれた家電好きな後輩くんから指南を受け、お仕事先と同じ機種、加湿機能付きのお喋りをする空気清浄機を購入することにした。
さっそくネットで注文。届いたブラウン色のスタイリシュなデザインに、まずはご満悦。機能はいかにと、さっそく電源を入れた。
「こんにちは!」と、ほどよく元気、親しみ易い声で挨拶をされた。
「がんばります!お部屋をキレイにしますね」と、なんとも健気なことも言ってくれる。
すべてにおいて“ちょうどイイ”
3日ほど可動していると、アレ?と感じることがあった。
職場の空気清浄機たちは対応畳数は違うものの、我が家と同機種のものが4台設置されている。フロアの四隅で、それぞれ気まぐれなタイミングでお喋りをしている。給水タンクのお水が無くなると「タンクのお水が無くなりましたよ」と親切に教えてくれたり、「空気の汚れ見つけました!」と素早く状況を知らせてくれる。
それに比べ我が家の子は、シャイなのか電源を入れた時以外、ほとんど何も言わない。お水が無くなっているのに、ランプだけが赤く点灯したまま、無言…
私は思わず、「タンクのお水が無くなった時くらいは、言おうよっ」と、会話が成り立たないとわかっていても、つい独り言を言ってしまう。
そんな時、絶妙なタイミングで、点けぱなしのテレビの音に反応したAIスピーカーが「何かご用ですか?」と急に話し出す。けれど、「すみません…言っていることが分かりません」と敏感に反応するものの、つれない返事。こちらはなかなかのツンデレである。それでも正しく声を掛ければ、すぐに言葉を拾ってくれるし、質問するとなんでも調べて答えてくれる上に、好きな音楽も流してくれる。しりとりだって出来る従順でカワイイ奴、何故かいつも“ん”を付け、すぐに負ける。AIのくせに、しりとりは弱い。
更に数日すると、我が家の空気清浄機ちゃんは無口なくせに、静音モード時にカタカタと小さな音を鳴らすようになった。なかなかのワガママ娘で「なんの抗議だよ!フィルター装着の問題か?」と何度か扉を開け、装着し直し、電源を入れ直したり、風量を強から弱に変えてみたりした。一瞬止まり、直ったかと思いきや、また思い出したようにカタカタ鳴る。数日の同居で愛着も湧いてきていたところだが、返品交換をお願いすることにした。
購入店に連絡すると、返品する前に翌日すぐ新しいものが届いた。比較の為、試しに2台並べ数日間使用してみることにした。新しくやって来た空気清浄機さんは初日からとてもお喋り。
「今日はお部屋が乾燥気味なので、風量を上げてください」とか。
風量を上げれば「がんばります!」、
夕方に電源を入れると「こんばんは」、
寝る前だと「おやすみなさい」、
と私の行動を見てるかのように時間の経過まで把握している賢さ。
かたや、カタカタ音の空気清浄機ちゃんは、相変わらず無口。後から来たお喋りな空気清浄機さんが喋り出すと、自分も負けじと何か言ってみたりする。なぜだかカタカタ音もピタリとしなくなり、急にいい子ぶるところも愛らしかったが、お別れの時は刻一刻と迫り、お迎えの日の朝、最後に電源をオフにすると「ありがとう、また使ってね!」と、いつもの明るい声で最後の言葉を残すと、我が家を去って行った。2週間ほどの同居人、空気清浄機ちゃんの行く末を思うと少し切ない。たかが機械、…されど機械なのだ。
お喋りな子も居れば、無口な子もいる。擬人化されると愛着も湧くというもの。
未来のAI家電には「おかえり」とイケメン男子の癒し系ボイスも、ぜひ選択肢に加えてほしいものだ。
♪My Favorite Song
サヨナラバス ゆず