インスタントラーメンを絶妙な加減で作るセンスというのは、ある種の才能だ。
子どもの頃、祖母の家に預けられた私のお昼のリクエストはいつも「インスタントラーメン！」だった。

私にとって“おばあちゃん”という響きは何でもできる知恵袋的なイメージ。煮物やおばんざい、大皿料理を手際よく作り、「みんな！出来たよ～さぁー！お食べ！」とか、夜なべした繕い物は、翌朝にはほつれた箇所がわからないくらいに直っているとか、おばあちゃんという人種は、そんな器用さを持ち合わせているものだと思っていた。

しかし、物心がつくようになってからは、どうもうちの祖母は料理や裁縫があまり得意でないのでは？と気づき始めた。あれこれ野菜を煮てはいたが、色鮮やかな人参の橙も、ささがきゴボウや椎茸も、なぜだか全部同じ茶一色、その他の料理も茶系で統一された食卓であった。祖母は物を大切にする始末屋でもあったが、繕い物もほつれた穴がなんとなく塞がっていれば良し！という仕上がりだった。ただ、編み物だけはそこそこの腕前で、祖母の得意、不得意の境界線はよくわからなかった。

毎回ごはん時になると、私に何を食べさせようかと祖母は困っている様子で、もちろん幼い子供が喜ぶようなハンバーグなどのメニューが食卓に並ぶわけもなかった。何を食べたいか一応聞かれるので、好きなメニューを毎回答えるものの、カタカナ文字の料理たちは、祖母にはかなり難解だったようで、ハンバーグには何が入っているのかを聞かれたことさえあった。今思うと作ってくれなかったのではなく、作れなかったのだ。

悩みに悩んだ末、祖母からの提案は“袋入りのインスタントラーメン”
普段、家では決して食べさせてもらえない禁断のそれである。後から知ったのだが、これは祖父用の夜食だったらしく、祖父自ら買ってきたストックを祖母はこっそり拝借し、孫のお昼ご飯にしていた。そして私は母に内緒でそのラーメンを食べていた。祖母と私の内緒ばかりのこっそり闇ラーメンが美味しくないわけがない。

幼い私に一袋は多すぎると、乾麺を半分にパキっと割り、粉末スープも半分だけ使い、ラーメンを作り始める。愛用の年季の入った古びたアルミ鍋が登場すると、私はソワソワしながら台所と和室の間を行ったり来たりし、出来上がるのを待っていた。屋台ラーメンさながらの、四角い赤渦巻きの縁取り、空っぽの底には龍の絵が描かれたラーメン鉢、割りばしと蓮華、薬味は乾燥ネギ、最後に鍋の上で卵を割り入れて、シンプルな飾り気のないラーメンが出来上がる。麺のゆで加減、スープの溶き具合も絶妙。白身が余熱で白く変わっていくのを見つめながら、おばあちゃんが一人で切り盛りする場末感漂うお店にいる風な、そんな気分で食べるラーメンが好きだった。

それは、祖父が公民館の囲碁から戻って来る前に完了しなければいけないミッション。食べ終わるとすぐに空き袋はゴミ箱の奥底に、台所の窓を開け放ち、ラーメン鉢を洗い水気をキレイに拭き取ると戸棚に仕舞う。ストックのラーメンを食べたところで怒るような祖父ではないが、なぜだか二人で毎回コソコソ証拠隠滅をしていた。
あれから何十回とインスタントラーメンを食べたけれど、おばあちゃんのラーメンが一番だった。それは今でも変わらない。
即席なのに永遠、そんな魅惑の味だ。

♪My Favorite Song
虹   菅田将暉