眼鏡越しの風景EP27-百雷-
- 2020/9/26
- yukkoのお眼鏡
雷が怖い。
年々、ゲリラ豪雨や強力な台風が頻発するようになり、雷に遭遇する確率も高くなっている。
子供の頃はなんともなかったのだが、キッカケは高校二年、夏の終わりのあの夜からだ。その日は夜中に台風が通過するとニュースで言っていたが、普段は何があってもなかなか起きない私があまりの大きな音に飛び起きた。
我が家?
いや、私の部屋の真上ピンポイントに雷様が居座っているかのようで、閃光が6畳和室の全容を映し出す。壁に貼られた聖飢魔Ⅱのポスターの陰影が浮かび上がり、ここは悪魔が住む蝋人形の館なのかと見間違うほどだ。
その後すぐに、バキバキっ、バリバリっとすごい音。
「キャッ!」「キャー!」と布団を頭からかぶり夜中に一人大騒ぎしていた。音が聞こえないよう、光が入ってこないように、掛け布団すべての隙間を閉じてみたものの、さほど効果はない。
今にも天井から私めがけて雷が落ちて来そうな恐怖の中、光ってからゴロゴロ鳴るまでの間を震えながら数えていた。
普段はちょっとした反抗期。
話もせずすぐ2階の自室にあがっていき「別に…っ」と、ふて腐れ女子高生なのだが、この時ばかりは一階の両親の寝室へ避難した。
頭からかぶった掛け布団が階段をズルズル引きずられ私のあとをついてくる。
扉を開け、暗闇に向かって、「怖いからここで一緒に寝ていい?」と、か細い声で言ってみた。母は「どうしたの?」と寝ぼけながらむっくりと上体を起こし「いいけど…」と困惑していた。
私は父と母の布団の隙間に無理やり割って入ったが、父はぐっすり寝入っていたので1mmたりとも起きる気配はない。一家の長として、これで家族を守れるのだろうか?と、怖がりながらも余計なことを思っていた。
父と母、女子高生の大きな娘、デコボコの『川の字』は、まるで背の順だったが、朝までそのまま寝たのである。
翌朝、「なんでこんなところで寝てるんやぁ?」と父が一番ビックリしていた。
「昨日…雷が…ゴニョゴニョ…」どこか私はカッコ悪く語尾をハッキリさせずにいて、それを言い終えずに「別にいいでしょっ!」と布団を胸に丸め抱えると、そのままプイッと出て行き、扉をピシャリと閉めた。
それ以来、雷の恐怖心が染み付いてしまった。
雷での最大のピンチは逃げ場のない屋外。
自転車で雷に遭遇すると丸腰で外にほおり出された気分になる。ネックレスにピアス、ブレスレット、時計に髪留め、ありとあらゆる金属をとりあえず、雷様から見えないよう鞄に仕舞う。傘も先が尖っているし、危なそうなので雨合羽を素早く着る。
眼鏡の小さなネジや留め金も気になるが、かけないと見えなくなってしまうので、そこは譲歩する適当なルール。いまだに金属系のものに雷は落ちやすいと思い込んでいる私、科学的に正しいかどうかさえあやふやだ。
雷防備が完了すると、雨の中、背の高さも気にして、座高を低く前かがみで自転車を走らせる。
屋内でも雷が光りだすと、すぐそこにあるベランダの洗濯物でさえ怖くて取り込めない。すぐに窓を閉め、窓のそばにも近づかない、サッシの金具や壁に雷の電流が伝わって感電するんじゃないかとか、水も電気が伝わり易い?と、食器もその時は洗わない。ただひたすら安全そうな部屋の真ん中で体育座りでじっとしている。
昔よりも明らかに、雷雨も豪雨も増えた。
これくらい怖がっていた方がむしろ危機回避能力が高くていいと思う今日この頃だ。
おへそを隠しながら急いで家に帰ろう。
♪My Favorite Song
かみなり 斉藤和義