眼鏡越しの風景 EP23-憧憬②-
- 2020/7/25
- yukkoのお眼鏡
***前回からの続編『夏休みこどもさんすう教室』のお話***
午前の部が終わると、いよいよ区民会館の食堂でのお昼ごはん。
お祝いなど特別な日にしか外食しない我が家からすると、小さな子ども財布の資金は潤沢。
好きなメニューを自分チョイスで食べられる自由と解放の3日間、最高~!となるわけだ。
また、この食堂は内弁慶な私に優しい券売機方式。
自ら食券のボタンを押すなど、かなりの背伸び、大人の真似ごとの世界。明日はなにを食べようかと布団の中で考えると楽しみで眠れなかった。
1日目はハンバーグとオレンジジュース。
これから毎日ジュースだって付けちゃう。
白いお皿に褐色に輝くデミグラスソースと、緑鮮やかな茹でたインゲン豆、艶やかなオレンジ色したニンジンのグラッセ、コーンクリームスープとサラダ。大きめのナイフとフォークで、ぎこちなく切り分け口に運ぶ。
ナイフを使う時点で夢に見る、ザ!レストラン。
2日目は、昨日隣の子どもが食べていたお子様ランチ。
前の夜から決めていた。
プリン型にこんもりと盛られたチキンライスに爪楊枝の旗が差してある。
エビフライにはタルタルソース、そして小さなハンバーグに目玉焼きとウィンナーに、ポテトフライ、デザートはゼリーと、オモチャのオマケまで付いている。
弟も生まれ「お姉ちゃんでしょっ」てよく言われていたから、お子様ランチを頼んでいいのか少し迷ったけれど、好きなもの全部のせ!景気よくクリームソーダまで追加した。
憧れのお子様ランチはとびっきり美味しい。
午後からの授業は持ち帰った旗を、指でクルクルしながら、至福の余韻に浸り、授業なんて聞いてやしない。
ついに3日目。最終日のお昼はミックスサンドとミックスジュース。
ミックス×ミックスのスペシャルコンビだ。
家で食べるサンドイッチと違って、外で食べるとどうしてこんなに美味しいのだろう。
この日は午後から授業はなく、お昼を食べ終えると参加している全学年の生徒と大人たちが集まり、さんすうのゲームをしたり茶話会と、大きな講堂で遊んでお開き。
その後、教室の首脳陣であるおばちゃんは、この3日間の総評と打ち上げというお喋り会を食堂で始める。
私は隣のテーブルで宿題をしながら、ひたすら待っている。
去年はまだ一年生で、憧れていた『あんみつ』を最終日に食べる勇気がなかった。
今年は知恵も多少付き、こっそりあんみつ作戦を決行した。
おばちゃんは話に夢中だ。すぐに立ち上がらず宿題をする風で様子見、20分ほど経ったら表の券売機に、トイレ行きまーすみたいな顔で、サラーっと歩いて行き、お金を入れる。
硬貨がカランカランと券売機の中を転がる音にもドキドキする。
ランプが点くとすぐにボタンを押し、入口に立っていたマリリンにあんみつの食券を渡し、切った半券をもらう。注文してしまえばこっちのものだっ。
半券をノートの下に隠しながら待つと、あんみつがやって来た。
半分くらい食べたところで、おばちゃんが後ろを振り返り、
『あらっ?あんみつ頼んだの?帰ったらお家で夜ごはん食べれるかしら?』
『あんまり無駄遣いしちゃダメよ』と言った。
何も答えず下を向いたまま、とっておいた栗をスプーンですくって口に入れた。
『お金全部使ってない、お母さんは好きなもの食べていいって言ったもん』と心の中で呟いた。
口の中に広がる蜜の甘さ残る、ちょっぴり苦々しい想い出。
次年の夏は三年生となり、さんすう教室最後の年。
あんみつはほんの序章にすぎない。
来年は生クリームたっぷりのプリンアラモードを食べてやろうと思っている.
♪My Favorite Song
チョコレート 家入 レオ