眼鏡越しの風景 EP25-夏景-
- 2020/8/29
- yukkoのお眼鏡
夏休みも終わりに近づく頃、夏のメインイベントがあった。
両親が共働きだったこともあり、私は学校終わり学童保育所に通っていたのだが、毎年、学童の先生と保護者による、区民会館の貸し会議室を使った『手作りお化け屋敷』このイベントは地域の人達との交流も兼ねていて、例年大人気で会館の外まで長い行列が出来るほどだった。当日、先生や親たちはバタバタ朝から準備に大忙し、子供たちは夏休み最後の最大イベントにソワソワ、みんな楽しい気持ちいっぱいで落ち着かない1日なのだ。
親たちが準備にかかる間、留守番の子供たちの食事当番を任されたお家で、みんなでカレーライスを食べたり、そのまま夕方まで遊んで過ごし、夜になるのを待つ。お化け屋敷1週間前から子供たちはポスター作りを始め、当日にはビラもたくさん配り歩く。
スタートの30分ほど前には、すでにご近所の小学生から高校生、大人までが並び始め、日が暮れたおばけタイムには会館をぐるっと囲むほどの列になっていた。お化け屋敷会場は3階、1階から3階まで階段沿いに列が続き、待っている間、上の階に近づくにつれ、だんだん怖さが増してくる、演出で炊かれたお線香の香りと強めに設定された冷房のヒンヤリ感、真夏なのに指先がやけに冷たく、恐怖に拍車をかけた。
ついに入口が見える場所まで来た。中からは『キャー!』という悲鳴と小さな子供の泣き声、今年もずいぶんと怖そうだ…友達同士のお喋りも、中のドタバタと恐怖の音が廊下に漏れ聞こえ、顔が引きつり、友達との会話も上滑り気味。入口には先生『あちゃぁぁぁ』みんなの顔が更にこわばる。『学童っ子は入るの一人ずつやで~』と怖いことを言うからだ。『え—–っ』っ声が震える。
扉を開けられ有無を言わさず背中をポンと押され、一人ぼっちで中へ。うっそうと配置された竹と笹、おどろおどろしいBGMと、テープレコーダーからは読経が流れ続ける。青暗いライトの中、立ち尽くし、止まったまま進まないのも怖い、さらに奥の暗闇を進むのも怖い、次の順番の友達を待つか、前の友達を走って追いかけるか、いずれにしても泣きそうだ。オバケたちも顔見知りの子が来ると、張り切らなくていいものを、やたらとやる気満々で何度も冷えたこんにゃくを顔にユラユラ当ててくるし、長い髪に白装束の幽霊、血みどろのゾンビや、包帯代わりトイレットペーパーぐるぐるのミイラも、かなりしつこく追いかけて来る。張りぼてのリアルお墓の横には、絶対動くよね?なんか出て来るよね?という黒い影が佇み、仕切られた部屋のあちこちから『キャーーーー!!!』だの『わぁ!』と悲鳴や叫び声。通路の先で動けなくなっていた、先に行った友達がだんご状態になっているところになんとか追いつき、その後も『ワー!キャー!』とみんな半泣きで我先にと。冷や汗と恐怖でみんな汗びっしょり、暑いのか寒いのか、泣いてるのか笑っているのか、どこかこんにゃく臭くもあり、もみくちゃになりながら出口から飛び出して来る。
1回経験するとそのあとは怖さも和らぎ、調子にのり何回も入る『また来たんか~!』と、今度はオバケもやる気ナシ。『怖くない~』と言いながらスタスタ暗闇を歩いていくと、だんだん驚かし疲れたオバケの大人たちにグイっと腕を掴まれ『そろそろこっちに来い!』と暗幕の中に引き込まれ、ついに私たちはオバケに魂を売ることとなる。オバケだけにミイラ取りがミイラになってしまったのだ。と、ウマいことを言ってる場合ではない。まぁ、ここからがすこぶる楽しい。脅かしている側は、相手の顔がよく見えるので、暗幕の影で息を殺し、時折クスクス笑いながら、前を通る獲物?を今か今かと待つ。いつも澄まし顔の、きどった同級生女子が驚く姿や、いたずらっ子で悪ふざけする男子を日頃の恨みとばかり、5割増しで脅かしてみたり。オバケ稼業も悪くなかった。
あの頃、このイベントが終わると毎年夏が終わってしまったような気持ちだった。やり残した宿題に半べそかきながら、汗かき、泣き笑いしてはしゃいだ、大忙しの夏。今年は静かに過ぎようとしている
♪My Favorite Song
secret base~君がくれたもの~ ZONE