眼鏡越しの風景 EP19 -共鏡-
- 2020/6/6
- yukkoのお眼鏡
6月といえばもうすぐ父の日。
小学生の頃、幼なじみちゃんとどちらの父親が優しく、いいお父さんかという、それぞれの父親たちが聞くと泣いて喜びそうな、娘同士の小競り合いがあった。
彼女のお父さんと私の父は、どちらも背が高く、
顔立ちは色白面長で、どこか雰囲気も似ていて、遊んでくれる頻度も似通っていた。
最初は二人だけで
「私のお父さんは遊園地に連れてってくれるんだ」とか
「昨日はケーキを買ってきてくれたよ」とか、そんな些細な自慢のし合いっこ。
相手の自慢のほんの少し上をいく自慢で応戦する。
しばらくすると、お互い自慢することも尽きてしまい、
「父が何人兄弟だ」とか、
「田舎のみかん畑では、みかんが食べ放題だ」とか、
「外に大きな釜の五右衛門風呂があるんだ。スゴイでしょ」といった感じだ。
五右衛門風呂に関しては夜は真っ暗、
裸電球に虫がいっぱい集まってくるし、
足はアチチチってなるわで、
いろんな意味でめちゃくちゃ怖い。
もはやもう自慢でさえない。
さらに、もう一人大親友の幼なじみちゃんが巻き込まれることとなった。
「ねぇねぇ この前遊びに来た時、うちのお父さん、お菓子買ってくれたよねぇ~」
「夏の旅行の牧場も楽しかったよね~」
と、ニコニコしながら彼女を証人に私は票かせぎをしようとした。
心優しき彼女は
「どっちのお父さんも優しいと思う…」と言い、
顔を真っ赤にしながら下を向いてしまった。
最終的に、幼なじみグループ6人全員が巻き込まれた。
私たち以外は「どっちでもいいんだけどなぁ…」と思っていただろう。
娘、誰しも自分のお父さんが一番好きに決まっているのだから。
それから、私も思春期となり、父に口答えをしては喧嘩、部屋に閉じ籠ったり、
時には制服のまま家を飛び出し、夜遅くまで一人駅前をぶらぶらした。
怒り疲れると、幼い頃の父ちゃん自慢大会の事をいつも思い出していた。
「あんなに大好きだったのに。。。」
「今の私なら、父の嫌いなところを何十個でも言えちゃうよ」
と、皮肉ぽく思ったものだ。
自慢げにクイッと顎をあげ、口を尖らせていたあの日がどこか懐かしい。
ところが、ある日気づいてしまった。
「にっ、似ている。父の苦手だと思ってたところが」
娘はよく父親に似ると言われるが、気がつけば合わせ鏡だ。
だから、腹も立ち、ぶつかりもしたが、
父から受け継いだ妙に頑固な性格も、何かと便利な背の高さも、
まぁまぁ気に入っている。
2020年初夏…
なかなか会えない今だからこそ、少しだけそんなことを思い出したのかもしれない。
♪My Favorite Song
遥か GReeeeN