眼鏡越しの風景 EP18 -見参-
- 2020/5/23
- yukkoのお眼鏡
苺の季節がやってきた。
数年前、仲良しの友人宅で開いた持ち寄りパーティ。
みんなそれぞれ、自慢の手料理、パンやお菓子、オススメのお酒、地方からのとっておきのお取り寄せや、お気に入りのスイーツ、お惣菜を手にそれぞれやって来た。
それはそれは贅沢で、美味しく、楽しい時間であった。
そこに遅れてやって来た、いつもはぶっきらぼうで口下手、イマドキ脱力系男子。
小さめの白いスーパーのナイロン袋を指先に掛け、ブラブラ左右に揺らしながらやって来た。
「果物屋さんの前通ったら、おいしそうだったから…」とボソッと呟いた。
目線を外し靴を脱ぎながら、少しの沈黙のあと「 んっ」と白い袋を目の前に差し出した。
なんで苺!?
今、ここでなんで苺チョイス?
不意を突かれ、予想外にドキドキしてしまい「あっ、あ ありがとう…」と受け取ると、私の横を壁にへばりつくように通り過ぎ、奥で盛り上がる仲間の輪へ加わった。
華やかな料理が並ぶテーブルの隅に、薄いセロファンを外し、遅れてちょこんと乗せられた苺パック。
私はそれが気になって仕方がなかった。
あちゃぁ…こヤツ!天然モテ男子かっ。流行りのスイーツをあえてチョイスしない、肩肘はらいない感じ、この豪華な料理の持ち寄りラインナップの中で、安価でありながら素朴な中に秘めたスターの存在感。
しかも女子はだいたい苺が好きである。
その証拠に、この季節あちこちのホテルでは、苺に特化したスイーツバイキングが、高級でありながらも連日大人気である。
また果物の種類としても、メロンでもパイナップでも、リンゴやミカンでもなく、苺であることがここでは重要なのだ。
果物の手みやげはどうしてもお見舞い感が出てしまうし、ミカンやリンゴだと家にもよくある日常で特別感がない。
苺を買う時は「よし!今日は苺買うぞ!」「帰っていつ食べようかな~」「朝?食後?おやつ?」「今日は冷蔵庫に苺入ってるんだよね~」という食べる時間さえイベント感が出てしまう、この気持ちである。
家族の人数により、一人何粒まで食べてOKと、個数制限さえ存在する果物なのだから。
そこの絶妙さが、正直今回のやられた感なのだ。飾らず、秘めたキラっと感の原石年下男子と、苺がどこか重なり、不覚にもドギマギしてしまった。まだまだ私も修行が足りぬ。
見参! 愛しきイチゴ男子
♪My Favorite Song
SOS ABBA