眼鏡越しの風景 EP18 -見参-

苺の季節がやってきた。

数年前、仲良しの友人宅で開いた持ち寄りパーティ。
みんなそれぞれ、自慢の手料理、パンやお菓子、オススメのお酒、地方からのとっておきのお取り寄せや、お気に入りのスイーツ、お惣菜を手にそれぞれやって来た。
それはそれは贅沢で、美味しく、楽しい時間であった。

そこに遅れてやって来た、いつもはぶっきらぼうで口下手、イマドキ脱力系男子。
小さめの白いスーパーのナイロン袋を指先に掛け、ブラブラ左右に揺らしながらやって来た。
「果物屋さんの前通ったら、おいしそうだったから…」とボソッと呟いた。
目線を外し靴を脱ぎながら、少しの沈黙のあと「 んっ」と白い袋を目の前に差し出した。

なんで苺!?
今、ここでなんで苺チョイス?

不意を突かれ、予想外にドキドキしてしまい「あっ、あ ありがとう…」と受け取ると、私の横を壁にへばりつくように通り過ぎ、奥で盛り上がる仲間の輪へ加わった。
華やかな料理が並ぶテーブルの隅に、薄いセロファンを外し、遅れてちょこんと乗せられた苺パック。
私はそれが気になって仕方がなかった。

あちゃぁ…こヤツ!天然モテ男子かっ。流行りのスイーツをあえてチョイスしない、肩肘はらいない感じ、この豪華な料理の持ち寄りラインナップの中で、安価でありながら素朴な中に秘めたスターの存在感。
しかも女子はだいたい苺が好きである。
その証拠に、この季節あちこちのホテルでは、苺に特化したスイーツバイキングが、高級でありながらも連日大人気である。
また果物の種類としても、メロンでもパイナップでも、リンゴやミカンでもなく、苺であることがここでは重要なのだ。

果物の手みやげはどうしてもお見舞い感が出てしまうし、ミカンやリンゴだと家にもよくある日常で特別感がない。
苺を買う時は「よし!今日は苺買うぞ!」「帰っていつ食べようかな~」「朝?食後?おやつ?」「今日は冷蔵庫に苺入ってるんだよね~」という食べる時間さえイベント感が出てしまう、この気持ちである。
家族の人数により、一人何粒まで食べてOKと、個数制限さえ存在する果物なのだから。
そこの絶妙さが、正直今回のやられた感なのだ。飾らず、秘めたキラっと感の原石年下男子と、苺がどこか重なり、不覚にもドギマギしてしまった。まだまだ私も修行が足りぬ。

見参! 愛しきイチゴ男子

♪My Favorite Song
SOS  ABBA

yukko

投稿者プロフィール

眼鏡と帽子がトレードマークのボーカル yukkoです。

邦楽カバーとオリジナル、ピアノ&ウクレレ弾き語り
新開地音楽祭やラジオ出演等 神戸を拠点に活動中。

作詞やエッセイ、言葉を調べたり、書きものが好き。

眼鏡越しの風景を、徒然なるままに…。

この著者の最新の記事

関連記事

Language

ピックアップ記事

  1. モザイク観覧車

    2019-1-12

    【神戸の豆知識】阪神淡路大震災により壊滅的な被害を受けたAOIAから移築されたモザイク大観覧車

    震災の被害で移築された大観覧車 デートを楽しむカップルや家族などで賑わっているモザイクにある大観覧車…
  2. 2019-10-10

    Mop4:うしがたに

    5歳の息子は、まだ舌足らずなところがあります。 「うしがたに」というのは公園の名前で、正式名称は「…
  3. 2020-4-15

    ナガサワ文具オリジナル万年筆 北野坂ナイトブルー発売

    ナガサワ文具オリジナル万年筆 北野坂ナイトブルー発売 神戸北野の夜に輝く幻想的な世界を一本の万年筆に…
  4. 2020-4-9

    伸縮性に富んだ子供用ウオッシャブルマスクをイオングループが予約販売

    伸縮性に富んだ子供用ウオッシャブルマスクをイオングループが予約販売 イオングループの株式会社コックス…

情報提供

LINE@はじめました

KOBE Total Pressチャンネル

ページ上部へ戻る