眼鏡越しの風景 EP17 -弟子②-
- 2020/5/9
- yukkoのお眼鏡
黒船襲来とばかりに祖父と私、二人のお出かけにシラーっと加わり、自由に振る舞うおチビ怪獣の弟だが、末っ子ゆえの、生粋の甘え上手と要領の良さで、めきめきと頭角を現し、徐々に私の立場を危うくした。
「出かけるぞぉ」の一声が発令される少し前、祖父がお出かけ準備で静かに部屋を出ていくのだが、要領の悪い私は、いつもその気配に気づかない。
こしゃくにも祖父の動きを察したおチビ怪獣は、玄関までサササーッと廊下を滑るように走り、祖父のお出かけ用の革靴を下駄箱から出し、玄関のたたきに揃えて並べる。
極めつけは、正装した祖父を体育座りでニコニコ見上げながら待っている。
「なんだよぉ、この猿っ!お主は秀吉かっ!」
と、頂上決戦に先手をとられ、私はなんだか面白くないっ。
意味なく不機嫌になり、「行かないっ!」と拗ねては、出掛け際の祖母を困らせた。
もちろん、置いていかれないことを知るがゆえのワガママだ。
不機嫌なまま、前を歩く三人のあとを、少し離れ、ふてくされた風にダラダラと歩いていく。
おチビ怪獣が現れてからは、祖父が好きだったあの純喫茶を訪れることもなくなり、行き先は近くの商業施設のファーストフードやファミリーレストランとなった。
あのフォークの刺さらない硬いあんドーナツより、生クリームたっぷり、ふわふわのショートケーキの方が子どもの私には断然魅力的で、できたばかりの駅前のショッピングモールの華やかさと、目新しさにドキドキワクワクして、いつしか色褪せた路地裏の小さなお店を思い出すこともなくなっていった。
海沿いを走る電車に乗ると、ふと寡黙な祖父との懐かしい時間がよみがえる。
あの駅はいったいどこだったのだろう。
古いショーケース、くすんだガラス越しに見た、乾いたバタークリームケーキと、祖父の横顔。
そして私は、いつかの駅を今も探しつづけている…。
♪ My Favorite Song
ファミリーランド にこいち