眼鏡越しの風景 EP15 -特技-
- 2020/4/13
- yukkoのお眼鏡
数十年ぶり、ついにエアコンが壊れた。
「しかも2台同時に。これは大変だ!」
エアコンと言えば。
家電製品の中でも機能や機種が多様にあり、取付工事が必要な購入難解製品だ。
「なにを買えばいいのか、わからんやーんっ」
とりあえず、大手の電気屋さんを数件巡ってみるものの。
エアコン進化は凄まじく、数十年前から時が止まったまま苔が生えているような知識では、到底たち打ちできるものではなかった。
店内通路の上から下まで並ぶエアコン達に圧倒され、頬をくすぐるそよ風はこそばゆく、少しのけぞって後ずさり。
店員さんのカタカナや横文字やらに全然ついていけず、ポカーンと口を開けたまま、私の意識はどこか遠くへ行ってしまい、その日はすごすごと退散した。
「こりゃあ困った」
すがるように頼ったのが、少し前にテレビで流行った家電芸人ばりに、白物家電大好きな後輩くんだ。
さっそく助けを求めてみると、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに、顔の横で人差し指を立てて、先生風なしたり顔。
「ラッキーですよ、いい時に壊れましたね。今は2019年モデルが切り替え時期なのでオススメです」と開口一番。
「部屋は何畳ですか?」
「キッチンは部屋つづきですか?」
「部屋全体?人にピンポイント?どの冷暖にこだわりますか?」
「自動清掃機能付がいいですか?」
「湿度、空気清浄にはこだわりますか?」
などなど、次々に質問される。
「この人はいったい誰なんだ?電気屋さんなのかっ?」
最後には「あなたにとってエアコンとは?」と哲学的な質問が飛んできた。
答えに困る私をよそに。
「はい!メーカー候補はコレ。」
「予算による代替え機種はコレ、+デザイン重視なら機種はコレ」
ものの数十分で、メーカーから品番、大まかな価格帯を調べ、大きめの付箋にサラサラと書き出し、私の目の前にペタっと貼り付けた。
説明を聞きながら「ほぉ~」とか「へぇ~」の感嘆符オンパレードな私。
ひととおり後輩くんの電化製品愛とエアコンメーカー雑学やらの独演会が続き、家電劇場が落ち着くと「バァッ!」とにわかに立ち上がり、少し大きな体をゆらしながら両手を広げ、目を閉じた満面の笑みで天井を仰ぎながら大きく鼻から息を吸った。
そして、「エアコン替えたら、それはそれは部屋の中が爽やかな高原ですから」
さらに、クルッと振り返り「イメージこんな感じっす!」と。
「こんな分かりやすい説明があるだろうか!」
空気を吸い込む姿が、どこか『となりのトトロ』に見えなくもないが、あまりに気持ちよさそうな顔をするので、私もなぜか目を瞑り、同じように両手を広げ深呼吸。
「こんな感じぃ~?」と、目を開けるとそこは、青空広がる緑豊かな高原でもなんでもない、いつものオフィス。
昼休みにお弁当を食べながら何をしているのやらっ。
後日、オドオドした数日前の私はもういない。
例の付箋を手の甲に貼り付け、売り場へ一直線に進む。
「このエアコンをください!」
もちろん「もう一声!」と値引き交渉は忘れない。
だってそこは関西人ですもの。
♪ My Favorite Song
音楽のような風 EPO