眼鏡越しの風景 EP14 -杵柄-
- 2020/3/28
- yukkoのお眼鏡
寒い季節、自転車に乗る時はいつも手袋をつけている。
鶯色の革手袋や、英国ウールの手編み手袋の日もあるが、その洒落た手袋たちは、時々出掛けに玄関先に忘れられてしまう。
そんな精鋭たちの後ろに控えるは、終日外気吹きさらす、自転車の前カゴの中でひっそり耐え忍ぶ「置き手袋くん」たち。母が南米山岳地帯のお土産として買ってきたものだ。アルパカ毛糸で、暖かさは抜群、そんじょそこらのお洒落手袋なんぞに負けやしない。
しかし…とにかくデザインがイケていないっ。赤、青、紫、黄、緑と、なんとも賑やかな色の縞模様。街中へつけていくには、なかなかのピエロ感、ド派手な縞々くんはそんな訳で「置き手袋」担当となった。
朝晩使い終わると、少し歪なボール状にクルっとまとめられ、前カゴに戻される。
そして翌日、またまたさらに翌日、と連続で使用されることもあれば、花形選手のお洒落手袋登場の折には、前カゴで丸められたまま何日もじっとしている。
駐輪場に着くと、手袋をはずして丸め、前カゴへ入れてから自転車を停めるのだが、この順番をよく間違える。
私が使用している自転車置場は上下二台置きの二段方式。上段に停めてしまうと、自転車が頭上より高くなり、手袋を前カゴに入れようにも届かないのだ。
ここで選択肢は2つ。
1.自転車をもう一度降ろし、手袋を入れてから再度停め直す。
2.前カゴへ向かって、丸めた手袋を投げる。運動会 玉入れ方式である。
もう一度停め直すのは、誰に対してだかわからないが、なんだか負けた気がして悔しい。結局、毎回後者を選択してしまうのだが…
ピーピーッ!一人玉入れ競争開始!ヤーっ!
丸めたカラフルな手袋玉を投げる。
一投目!カゴにさえ届かず。
二投目!カゴを大きく超え、向こう側へ落ちた。
三投目!カゴの淵に当たり跳ね返ってきて、顔へ当たり…眼鏡がズレる。
投げ外すたび、他の自転車が並ぶ隙間へ落ちた手袋を取りに行く。
前屈みになりながら最大限まで手を伸ばし、手袋まであと少しと、指先をバタバタさせる姿はなんとも滑稽だ。前屈みの角度によっては、背負っているリュックが重みでそのまま背中をずり落ち、後頭部にズンッ。
一瞬体勢を崩し、狭い隙間でよろめく。リュックは、自転車チェーンの油で少し汚れた。
四投目!別角度から、ダンクシュートばりにその場でジャンプするも入らず。
五投目!だんだんイラっとしながら、再度軽めに投げるが…届かず。
六投目!「しら~っと平常心、別にイライラしてませんよ~」というフラットな気持ちで、アンダースロー投法。
七投目!カゴに至近距離まで近づくも、入らず。
「もう誰に負けてもいいっっ」
すごすごと自転車を上段から降ろし、前カゴに手袋をそっと入れる。
三つ子の魂百までならぬ、六つ子の魂百まで
そういえば…
運動会の玉入れは苦手だった。
♪My Favarite Song
ええねん ウルフルズ