眼鏡越しの風景 EP11‐初恋‐
- 2020/2/15
- yukkoのお眼鏡
2月に入ると、街は赤やピンクに彩られ、
チョコレートの香り漂うバレンタインの季節が到来する。
バレンタインデーと言えば、
甘い告白でも、待ち伏せのドキドキでもなく
思い出されるはこの出来事。
内心、この甘いイベントに浮かれながらも、恋に奥手で、大好きなあの子にチョコレートを渡す勇気さえ持てなかったあの頃。
それはバレンタインデー翌日。
5年2組の引き戸をガラガラと開けると、
普段、朝はボーッとしている私でさえ、ただならぬ雰囲気に背筋をゾクッとさせた。
教室ではクラスの女子が真っ二つに分断。
何がどうしてこんなことになっているのかサッパリわからず、
それでもなにか恐ろしいことが起こっていることだけはわかった。
どうやら昨日の放課後、クラスの女子グループがそれぞれ好きな男の子たちへの告白をめぐり、ひと悶着あったようだ。
告白の先を越された片方のグループの女子たちは、
『先生!学校にチョコレート持ってきています』と告げ口。
さらには、学年中に告白の噂を流すという手段に出たらしい。
朝、教室の扉を開けた瞬間に「どっちに付くの!?」
と詰め寄られる私も、たまったものではない。
今思えば、人生初の嫉妬とヤキモチの嵐に巻き込まれたことになる。
クラスの女子分断、冷戦状態は1ヶ月ほど続き、
その間、私は永世中立の立ち位置を貫いた。
話し合いの末、ようやく和解条約が締結され、クラスに穏やかな空気が流れた。
遠巻きに毎日気を遣う男子たちの安堵感たるや。
しかし、私にとってはそんなことはどうでもよかった。
当たらずして砕け散った、生まれて初めての失恋の方が10歳女子には大事件だったのだから。
♪My Favorite Song
初恋 奥華子