眼鏡越しの風景 EP9‐冬眠‐
- 2020/1/18
- yukkoのお眼鏡
年末から正月にかけお店のシャッターはおろされ、門松の絵が書かれた休業案内と共にしめ縄が飾られていた。
閑散とした街中に、お年玉で懐を温かくした子どもたちの軽やかな足音が響く。
幼い頃、私はこの時期におやつをストックする癖があった。
クリスマスにもらったチョコレート。
おやつの時間に出た小さな袋菓子。
友だちと交換したキャンディさえも。
お気に入りの箱を「冬眠ボックス」と名付け、せっせとストックに勤しむ。
それを学習机の足元へ大切にしまい、時々覗いては、溜まり具合にニンマリとした。元旦を過ぎると、更にこの行動は加速した。
世間はまだお店が開いてないというのに、私はこんなに豊富におやつを確保しているのよという、気持ちの余裕だ。
ある日、机の上に冬眠ボックスを置きっぱなしにしてしまった。
戻ってみると「大切な食料が減っているではないか!?」
乱暴に足音をドタドタ立て、2階からかけ降りる。
怒っている!という小さな抵抗だ。
「誰!誰が食べたのー!」と今にも泣き出しそうな声で癇癪を起こした。
犯人は、大掃除の合間にちょいと摘まんだだけの父だった。
「なぜそんなに私が怒っているのか」おそらく理解できなかっただろうけれど。
私の中では「この冬を越せるかどうか、生きるか死ぬかの小動物のストック行動」
はたまた「遊び呆けていたキリギリスに食料を掠め取られた蟻の気分」なのだ。
実際のところ、台所へ行けば食べ物はある。
お店が開いてないからといって、物理的に困ることなど何もないのだが。
今は年中、コンビニは開いているし、街は24時間眠らない。
今年もまた。
「冬眠ボックス」を少し開け、チョコレートの甘い香りに、心を踊らせていた 。
♪My Favorite Song
君は僕の宝物 槇原敬之