眼鏡越しの風景 EP8‐攻防‐
- 2020/1/4
- yukkoのお眼鏡
子どもの頃、お正月明けの話題はお年玉についてだった。
父方の親戚は遠く、毎年出向く先は母方の祖父母と両親のみ。
風来坊の叔父や多忙な叔母は、元旦に居たり居なかったりした。
しかし、この2人は会えなかった分も上乗せしてくれるラッキーパーソンなのだ。
そして、数年に一度有るか無いかの神キャラ「来客」登場の当たり年もあった。
それは、父の遠い親戚だったり、家の近所まで来た上司だったりする。
台所でお茶菓子を準備する母の傍らをウロウロ。
襖の隙間から、そおっと大人の談笑風景を覗いたり、私はどこか落ち着かない。
「それでは。そろそろ」と、おいとまの言葉が発せられるといよいよだ。
「よかったら、子供さんにどうぞ」と一巡目の先制。
スーツの内ポケットから差し出されるは、眩しいばかりに輝くポチ袋。
まず、母が「いえいえ、お気遣いなさらず」と遠慮。
これは儀式的なものではあるが、私は心の中で「お客さん負けるな!がんばれ!」と応援。
「お正月ですから、どうぞどうぞ」と二巡目の攻防。
お客さんが、隅っこに座る私を見てニッコリ笑う。
それを受け、遠慮がちに、恥ずかしそうに、微笑む私。
このはにかみ具合は、我ながらなかなかの名演技だ。
すかさず、父が「わざわざ来てくださり、お年玉まで頂けませんよ」と母をアシスト。
「少しですから、お菓子でも買うといいよ」と三巡目の畳みかけで、私にポチ袋が。
母が「そんなぁ。ねぇ?」と父と顔を見合わせるが「ありがとうございます。それでは遠慮なく頂きます」の一言。
「よっしゃ!堕ちた・・・」お客さんの勝利!そして私の勝利!
とびきりの笑顔と「ありがとうございます」の大きな声が、初春の我が家に響く。
時は過ぎ、20歳の誕生日。
子どもの頃から一度も使わずに貯めていたお年玉で、記念の腕時計を買った。
おじいちゃんとおばあちゃん、
お母さんとお父さん、
おばちゃんとおじちゃん
時々、お客さん。
みんなからのプレゼントを春の淡い陽差しにかざしてみる。
♪My Favorite Song
明日も SHISHAMO