眼鏡越しの風景 EP6‐寒声‐
- 2019/12/7
- yukkoのお眼鏡
今年も冬がやって来た。
毎朝すれ違う小学生たちは、カラフルな流行りのダウンジャケットに身を包み、首にはマフラーやネックウォーマー、手袋と完全防備だ。
子供でも大人仕様の防寒対策とお洒落を楽しめるファストファッション全盛期、半ズボンから粉を吹いたようなカサカサの膝小僧をのぞかせた少年など見なくなってしまった。
私が小学生の頃、学年に一人は居た夏でも冬でも年中 半袖半ズボン男子。
先生や周りの生徒は『○○くん、寒くないの?』『○○くん、すごいよね~!』と彼に賛辞を送っていた。
『全然へっちゃら。寒くないねん!』と彼もまんざらでない得意顔だ。
子供ながらに少しうがった見方をしていた私は『絶対っ寒いやろ!』と心の中で思っていたし『さぶイボ なってるやん』と独り言のように呟いた。
周りの大人も子供も、彼のアピールポイントを軽々奪ってはいけないと、空気を読んで忖度していたのかもしれない。
『へっちゃら』宣言をした手前、どんなに寒くても上着を着ちゃいけない、長ズボン履いちゃいけない呪縛を6年間背負うことになろうとは、彼もその時は思いもしなかっただろう。
ある朝、顔の割合よりかなり小さいガーゼマスクをちょこんと付け、聞こえるか聞こえないかの声で『おはよう・・・』と教室に入ってきた。
半ズボンは死守したものの、上には黒い厚めのシャカシャカジャンバーを着ていた。
教室のみんなの顔が一瞬『えっ!?』となったものの、誰も放課後までそのことには触れなかった。
翌週からまた何事もなかったかのように半袖半ズボンは復活した。
その後、彼は卒業式で六年間元気に通学した証「皆勤賞」をもらっていた。
今でもあの時の彼の晴れやかな顔は忘れられない。
令和冬の朝、向こうからランドセルを左右に揺らし走ってくる、遠い昔に絶滅したと思われていた半袖半ズボン男子を発見した。
冬仕様のモコモコ姿で通学する子供たちの中で、ヒーロー参上とばかりに一際オーラーを放っていた。
時を超えた今は、“誇らしげな顔”と“へっちゃら感”が妙にカッコいい。
「少年よ!風邪ひくなよ!風呂入れよ!歯磨けよ!」
と、いかりや長介の気持ちになってしまう。
♪ババンバ バンバン バン!
♪My Favorite Song
雪が降る町 ユニコーン