眼鏡越しの風景 EP7‐不図‐
- 2019/12/21
- yukkoのお眼鏡
片想いの人に偶然再会するなら、メイクも洋服もベストな状態で逢いたいと願うのが女心。
そんな経験は、誰にでも一度や二度はある。
そして、この私にも…
一度目は5年前の冬。
同僚と談笑しながら、待ち合わせしている彼を大きなターミナル駅で見かけた。
私は残業帰り。疲労困憊の顔でお腹を空かせ、夜食を探しに、街を彷徨っていた。
二度目は3年前の春。
百貨店の中、爽やかなニットを着た休日スタイルの彼が、反対側のエスカレーターを上がって来る。
私は、季節外れの風邪ひき真っ只中。マスクの下はノーメイク!?
何十年ぶりの再会なのに、毎回こちらの状況が普段以下のクオリティ。
これでは、さすがにとびきりの笑顔で『久しぶり~♪』と再会を喜ぶイメージと掛け離れ過ぎている。
しかし、神様は見捨てていなかった!!
それから2年が経ち、三度目にしてベストタイミングな再会チャンス到来!
その日、私は友達と出かけた帰り、メイクも洋服もそこそこにイイ感じ。
フードコートの中で、斜め後ろの席に彼の姿。
振り向けば、すぐそこという至近距離だ!
♪チャカチャーンと『ラブ・ストーリーは突然に』のイントロが頭の中で流れていた。
しまった。次の予定までの間にと、さっきたこ焼きを食べたんだ。
「もしや青のり付いてるのでは?リップも落ちてるかも」
慌てて近くの化粧室へ駆け込み、大きな鏡に映る自分に、ヨシっ!と気合を入れ、深呼吸。
さて、メイクを直そうとポーチを探ると
「んっ???なんだこの鞄の中のチャポチャポは?」
リュックの中では炭酸水がこぼれ、水溜りが出来ていた。
突然訪れた再会チャンスにかなり動揺して、ペットボトルの蓋を締め忘れたのだ。
何事もなかったように、涼しい顔で態勢を立て直し、化粧室を出る頃。
彼の姿はすでになく、独り、水浸しのリュックを背に喧騒のフードコートに立ち尽くしていた。
時を越え、
炭酸水の泡がまた、はじける音が聴こえた。
♪My Favorite Song
スターライトパレード SEKAI NO OWARI