眼鏡越しの風景 EP4‐夜光‐
- 2019/11/9
- yukkoのお眼鏡
奏 文太郎(カナ ブンタロウ)
私は、彼らのことをこう呼んでいる。
この夏、救出したカナブンたちは7匹。
まさしく、飛んで火に入る夏のなんとかなのだ。
毎日通る歩道の両側に、モルタル塗装の浅い溝がある。
そこは夜になると、外灯に引き寄せられて迷い込んだ彼らが、ポトンと落ちる奈落。
自慢の天鵞絨光沢の硬い背中が、塗装で滑る。
そして、起き上がれず、天を仰いだまま力尽きて屍となるのだ。
通勤で忙しい朝、今朝も2匹連続で、足をバタバタ動かし起き上がれないでいる。
彼らはいつから何時間こうしているのだろうか。
ここで見過ごせば、私が帰宅する頃にはきっと死んでしまう。
そーっと人差し指を近づけてみる。
ギュッと六本脚でしがみつき、握り返す力には安堵の様子が伺える。
妙な使命感から始めた、夏から秋に駆けての朝活救出パトロール。
もう、かれこれ5年ほどになる。
日本昔話に出てくる竜宮城に招待した亀やはたを織る鶴も然り。
カナブンたちよ、そろそろ恩返しがあっても、いい頃じゃなかろうか…
秋の夜長、虫たちの声をぼんやり聴いていると「オンガエシニキマシタ」
小さな声が聴こえたような気がして、窓をそっと開けてみる。
そこに居たのは、天を仰ぐ8代目 奏 文太郎
どうやら「タスケテー!」という空耳だったようだ。
♪My Favorite Song
真夏の夜の匂いがする あいみょん